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人間万事塞翁が馬 その2

前回からの続きです。
なぜ、私がこの故事成語を座右の銘にしているのか。私も、浮き沈みの人生を送ってきましたので(今も?)、共感できるのです。
浮き沈みの人生を紹介しますと…
多摩美術大学のグラフィックデザイン課を卒業したのが、1980年代半ば。時代は数年後にバブルの絶頂を迎えようという好景気でした。大手の広告制作会社に入社し、先輩や友人に恵まれ、幸せなデザイナー人生をスタートさせました。4年くらい経つと、デザイナーというのは、仕事も覚えてくるし、ほかの仕事にチャレンジしたくなり転職しだすのですが、私もご多分に漏れず、大企業花王のデザイナーに。今から思えば多くの事を学ばせていただいたし、楽しい毎日でしたが、デザイナーの仕事としては、あまり満足していませんでした。そして社員数7人というCI会社に転職。ここの社長に出会って、大学でも、大企業でも教えてくれなかった「私は何のためにデザインをするのか」という大切な事を初めて考えさせられたのです。しかし、1993年バブル崩壊のあおりを食って給料の遅配、そして倒産してしまいました。しかしプロジェクトは終了してなかったので、数ヶ月間は無休で働いていました。失業保険の12万円くらいで生活を余儀なくされました。その会社では学ぶ事が多かったので、お金よりも学ばせてもらった事が自分の何よりの報酬だと判断したのです。
次に、博物館や展示のデザインをする会社に転職。ここも3年ほどで倒産してしまいました。バブルの崩壊の91年からは景気はどんどん悪くなるばかりでした。またまた転職。今度は店舗のデザインと、店舗のCIを手がける会社でした。この会社には7ヶ月しか在籍せずに、1995年の9月に独立しました。(ちなみに最後の会社の社長は昨年インサイダー取引で逮捕され、今は留置所の中にいらっしゃるとか)
転職を4回も経験し、そのうち倒産を2回経験してきました。さまざまな環境、組織規模、仕事のジャンル、クライアント様の仕事をさせていただき、独立した今では、そのすべてが役に立っていると思っています。
 倒産を連続2回経験すると、けっこう肝も太くなるみたいで、たいていの事には動じません。一生懸命やっていればなんとかなるものだという事が学習されるのでしょう。独立してから13年、いろいろありましたが、たくさんの人と巡り会えたおかげで、なんとかなってきました。
塞翁もきっと若いときは一喜一憂してきたのでしょう。しかし、彼は経験を重ね、周りで起こる現象に振り回されたって、ろくな事がなかったという事を学習し、あのときああしていればもっと事態は良くもなったのにという反省重ねてきたのでしょう。主人公が老人である事に、説得力があると感じます。
優良企業の株価は上下しながらも、長いスパンで見れば上昇曲線を描きますし、ダメ会社は、急に株価が上がっても、どーんと落っこちたりします。目の前の曲線は上下があって当たり前なのですから、じたばたしない事です。
塞翁は馬を失っても、「必ず、この事が良い事の兆しになる」という、「希望」を持ち続けました。希望を持つ事は経営者にとって一つの能力であり、知恵だと思います。幸いのときには、勝って兜の緒を締めよと、慎みも忘れません。何があっても平常心でいられる事は、自分の能力を最大に発揮するための大切な条件だと思うのです。一喜一憂な気持ちでは、判断を誤ります。経営者は感情に振り回されないよう冷静に対処できなければなりません。
この話は「禍は福となるという変化は深淵で、見極める事はできない」と結んでいますが、周りの村人の反応は私たち一般庶民であり、これが普通なのでしょう。村人は世の中の浅い部分に流されて、翁は深いところを知っているので流されない。
この部分は吉川英治の小説『宮本武蔵』の最後のことばを思い出させます。
「波騒(なみざい)は世の常である。波にまかせて、泳ぎ上手に雑魚は舞い、雑魚は踊る。けれど誰が知ろう、百尺下の水の心を。水の深さを。」
今、経済がひどい事になっています。今日のニュースも人員削減、生産ストップ、経営統合など以上な事態です。今やるべき事は何なのかをしっかりやり、希望を持って努力するしかありません。先の事は「考え」ますが、「悩んで」もしょうがないですよ。

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経営
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熊谷淳一

熊谷淳一

株式会社ノイエ 代表取締役。デザインで経営を伸ばす経営コンサルタント・クリエイティブディレクター。デザインは第5の経営資源としてデザイン経営とマーケティングの研究にいそしむ。 お酒、書と陶芸が好き。 尊敬する人は岡本太郎。
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