社長ブログ:クマデ総研社長ブログ:クマデ総研

「デザイン思考」を学ぶことよりも大切なこと

designthinking最近、ネットの中でデザインと経営の関係性に関して書かれる記事が目につくようになりました。経済的にも成熟してきて、次世代へのイノベーションが必要だと言われて続けているなかで、「デザイン思考」という言葉が数年前から語られています。

しかし、この「デザイン思考」とは、いったいこれがなんなのか、そして具体的にどのように役に立つものなのか、どうも明確になっているようには感じません。みんな言っていることが微妙に違っているし、発言者の立場が違ってくると視点も変わってくるから、なんだかモヤモヤしてしまうのです。

特に違和感を感じ続けているのが「デザイン思考」とはデザイナーの思考プロセスであり、論理的思考ではない発送の方法…などとも言われていることです。

ん?そうか??

とデザイナーの僕は思ってしまうのですが。

たいてい6角形の5つのステップというものが出てきて、付箋紙を使って何やら壁にメモをぺたぺた貼り付けている風景がよくみられます。

最初のステップはユーザーの思考を理解し、そのニーズを探り、なぜそのサービスが欲しいのか、サービスを手に入れた先に何を求めているのかを想像する。ということですが、こんなことはマーケティングの最初のステップであり、基本中の基本のことです。

どんな製品開発や事業の企画だって、「顧客のニーズは何なのか?」を考えずにスタートすることはあり得ません。

次のステップはユーザーは自分が求めているニーズの本質を理解していないので、本当のニーズを定義しよう、ということらしいのですが、これもマーケティングの基本。有名なフレーズに「顧客はドリルが欲しいのではなく穴が欲しい」という言葉があります。つまりドリルの性能や機能などに関心はなく、顧客は楽に早く壁に穴を開けるにはどうしたら良いのかにしか関心はないのだから、ドリルのスペックをいくら訴求しても響かない。だから顧客の本当のニーズを知りそれを満たす訴求をしなければものは売れないという意味です。このように、顧客が本当に欲しいものは何かを探ることはマーケティングの基本です。

お次はブレインストーミングなどの手法を使ってアイデア出しすることで、概念化と呼ばれますが、質よりも量を出すことが重要とか。別にデザイナーじゃなくてもどこの企画会議だってブレストやるでしょ。何十年も昔からやってるよね。

次のステップはプロトタイプを作って見える化し、最後はテストをして改善する。ということらしいですが、プロトタイプを素早く作り、ビジュアル化することがデザイナーの仕事っぽいと思われているのだろうか?確かにアイデアをささっと見える化するのはデザイナーの技術力が活用されるところかもしれません。しかし「とにかくやってみなければわからない」ということで試作品を作って小さく実験して改善するサイクルを回す、ということもこれまで行われていることです。

どうも新しいメソッドだとか、これからのビジネスに必須だとか言われていることに違和感を感じてしまいます。

アメリカのIDEOのような大先生の有名デザイナーはどうか知りませんが、実際、日本の多くのデザイナーは、ユーザーのニーズよりも、クライアントのニーズの方を見ています。クライアントが赤と言ったら赤にしてしまうデザイナーが多いです。クライアントのいう通りに仕事を進めるのは楽なのですよ。言われたことをやっている分には責任が生じないから。

昔、僕がデザイン会社に務めていた頃、自社の営業さんとのやり取りで「クライアントから言われた通りにデザインすると、物凄い変なことになりますよ」と言っても、返ってくる言葉はいつも「クライアントの言うことは絶対だから、とにかく言う通りにしてくれ」でした。

顧客の真のニーズはなかなかわかりません。顧客自身も気付いていないことが多いからです。だからここは「仮説」を立ててアイデアをたくさん出すしかありません。クライアントの言う通り、好みに合わせてデザインした場合、おそらくダメなデザインになってしまうだろう、ということは、現在自分のデザイン会社を経営していても起こることです。そういう場合はクライアントの言う通りのデザイン案ももちろん作りますが、こうであるべきだろうと言う仮説のデザインも添えて提案します。そこから先、どのデザイン案を選ぶのかは経営者の仕事です。

「プロのデザイナーとしてどの案をお勧めですか?」と聞かれても、経営者が選択するまで、絶対にお答えしません。僕の(プロの)意見に引っ張られてしまうからです。

「仮説」の案をいくつも作って、デザイン思考のメソッドのようにそれをテストするとなると、なかなか難しい。予算も時間もかかるリスクがあるからです。大企業の新製品開発の場合ならばこれも昔から行っていることです。中小企業はちょっと難しいですね。

だから最後は経営者がいくつかのアイデアの中から、ビジネスがうまくいくであろうと思われる案を選択しなければなりません。それは誰にもわからない。テストをして、顧客にアンケートをとって数字が出たとしても、失敗する場合も多いのです。アンケートはあまり当てにしてはならない、というのはマーケティングの世界の常識です。

では、どうすれば良いのか?「デザイン思考」を学べば優れたアイデアが生まれるのか?正しい判断ができるのか?

多分できません。

わからないことをを判断し、決断するのが経営者の仕事です。

選択する指針や材料、証拠やデータがもしあるのであれば、決断はAIに任せてしまえばいいでしょう。

簡単にわからない中で決めなければならないのが経営者の役割です。

だから経営者はいつも顧客に寄り添い、お客様の気持ちに思い巡らせて、正しい選択ができるように世の中を見て、知って学び続ける必要があるのだと思っています。

それは大企業の社長だけではなく中小企業の社長やフリーランスの個人事業者まで、商売をしている人は皆同じです。

「デザイン思考」とかブームのようになっているようですがそのような思考テクニックやメソッドを学ぶよりも、社会学や心理学を通して人間について深く学んだ方が正しい学び、そして経営判断ができるのではないかと感じています。

いいね! いいね!
デザイン経営
\シェアお願いします/
熊谷淳一

熊谷淳一

株式会社ノイエ 代表取締役。デザインで経営を伸ばす経営コンサルタント・クリエイティブディレクター。デザインは第5の経営資源としてデザイン経営とマーケティングの研究にいそしむ。 お酒、書と陶芸が好き。 尊敬する人は岡本太郎。
>詳細はこちら

日経BP社のサイトの連載コラムも下のバナーからご覧ください。
[コラム]経営を伸ばす視覚伝達デザインの鉄則・エンジニアのための視覚伝達デザインの法則

\SNSフォローお待ちしてます/
  

株式会社ノイエ

コメント

タイトルとURLをコピーしました