先日、Adobeのシャンタヌ・ナラヤン氏が、18年という長い任期を終えてCEOを退任するというニュースがありました。18年ですよ。AppleのCEOのティム・クック氏も引退を表明しましたが彼ですら15年です。変化のスピードが尋常ではないシリコンバレーで、これほど長くトップを務め、しかも企業価値を10倍以上にまで引き上げた手腕には、正直脱帽するしかありません。
僕たちデザイナーにとって馴染み深い「ソフトを箱で買う」モデルを、今のサブスクリプションへガラリと変えたのも彼でした。当時は反発もあったでしょうが、その決断があったからこそ、今のAdobeがあります。
Adobeのソフトがサブスクになった時を覚えています。正直やられちまったなと言う思いでした。
それまでは、1つのソフトを買って、それを社員みんなで使用していましたがネットワークプロテクトがかかってそれができなくなり、その上デザイナーの数だけきっちりとソフトの使用料をとられてしまう。結構高い価格を、それも毎年です。この痛みは今でも続いていますが、まぁ時代の変化と言うことなんでしょう。おかげでAdobeは業績を大きく伸ばしました。
Googleも、Microsoftも、IBMも。今や世界を動かす巨大企業のトップは、その多くがインド出身者で占められています。かつて80年代、日本の経営者が「世界のお手本」ともてはやされた時代がありましたが、今はどうでしょうか。日本が足踏みを続けている間に、彼らは何を武器に世界を塗り替えたのか。今回は、その「リーダーシップの正体」について、僕なりに考えてみたいと思います。
Adobeを救った「箱」からの脱却と、圧倒的な実績
ナラヤン氏がCEOに就任したのは2007年のこと。当時はまだ、PhotoshopやIllustratorをCD-ROMで購入していた時代です。新しいイラストレーターを箱で買ってきて、CD-ROMからコピーしてのんびりとインストールしていた時代が懐かしい。彼はその安定したビジネスモデルを捨て、クラウド化・サブスク化へと舵を切りました。
これは、単なる「売り方の変更」ではありません。会社全体の構造を根本から作り直す、痛みを伴う大改革だったはずです。結果として、時価総額は就任時の200億ドルから、ピーク時には3,000億ドルを超えるまでに成長しました。従業員数も7,000人から3万人以上へ。
僕が素晴らしいと思うのは、彼が「外部から連れてこられたプロ経営者」ではなく、いちエンジニアとして入社し、社内での信頼を積み上げてトップに登り詰めた「生え抜き」であることです。現場の苦労も、プロダクトの細部も熟知している。だからこそ、あの果敢な決断ができたのではないかなと思います。
なぜ、インド系人材が選ばれるのか?
それにしても、なぜこれほどまでにインド系のリーダーが選ばれるのでしょうか。単に「英語ができるから」「数学に強いから」という理由だけでは、説明がつかない気がします。そこには、彼らが育ってきた背景にある、独自の「強さ」が隠されているようです。
1. 混沌を乗りこなす「ジュガール」の精神
インドには「ジュガール(Jugaad)」という言葉があるそうです。これは「限られた資源の中で、機転を利かせて解決策を見出す」という独自の知恵を指します。
インドという国は、政局の変化や貧富の差が激しかったりして不安定な社会です。そんな予測不能なカオスの中で日常を送ってきた彼らにとって、ビジネスのトラブルなんて「日常茶飯事」なんです。
パンデミックや生成AIの台頭など、正解のない今の時代。この「不確実性に対する圧倒的な耐性」と「柔軟な適応力」こそが、エリート教育だけでは得られない、彼らの最強の武器になっているんですね。
2. 「強権」ではなく「共感と調整」
一昔前のシリコンバレーといえば、スティーブ・ジョブズのような、強烈な個性でグイグイ引っ張る「カリスマ型」が主流でした。でも、組織が巨大化し、多様な人種や価値観が混ざり合う現代では、その手法は限界に来ています。
そこで求められているのが「共感型リーダーシップ」です。
インドは多言語・多宗教が共存する複雑な社会。異なる意見をまとめ上げ、チームのポテンシャルを最大化する「調整力」が自然と身についているのでしょう。
Microsoftのナデラ氏も、就任後に社内文化を「競争」から「共感」へ変えたことで、停滞していた組織を見事に蘇らせました。僕も経営者として、数字を追うこと以上に、人の心をつかむことの重要性をひしひしと感じています。
3. 世界一過酷な「選抜」を勝ち抜くタフさ
「インド人は数学に強い」とよく言われますが、それは単なる暗記ではなく、複雑な問題を解き明かすための「論理的思考力」が、生き残るための必須条件として叩き込まれているからなのでしょう。14億人の中のトップオブトップとして選ばれ、さらにアメリカに渡って実績を積み上げてきた彼らの精神的なタフさは、まさに「国宝的エリート」と言えるかもしれません。

日本のリーダーシップに足りないもの
一方で、日本の状況はどうでしょうか。
80年代、世界を席巻した日本の経営者たちの背中は、今や遠のくばかりです。政治が悪いのか、教育が悪いのか。「失われた30年」と言われますが、僕が思うに、一番の問題は「変化を恐れる文化」そのものにあるのではないかなと思います。
ビジネスも同じですよね。過去の成功体験に縛られて、現場や顧客のリアリティを見失っていないか。ナラヤン氏のように、たとえ痛みを伴っても「未来のために今を変える」という勇気を持てているか。日本の経営者も、彼らの「誠実なリーダーシップ」から学ぶべきことがたくさんあるはずです。
シャンタヌ・ナラヤン氏がAdobeに残した最大の功績。それは単なる利益成長ではなく、「変化を恐れず、組織の文化をアップデートし続ける」という姿勢を示したことだと思います。
インド系リーダーたちの躍進は、決して偶然ではありません。
- 不確実性を楽しむ「ジュガール」の知恵
- 多様な価値観を繋ぐ「共感」の力
- 圧倒的な研鑽に裏打ちされた「論理的思考」
これらは、これからの時代を生きる僕たち全員に必要な要素です。
「過去の正解=これからの正解」でもありません。僕も一人の経営者として、そしてデザイナーとして、目の前の変化を恐れずに、新しい価値を生み出し続ける精進をしていきたい。
まずは、身近なところから「変えること」を始めてみたいと思います。





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